2021年02月24日公開
2021年02月28日更新
ナイロンナットの使い方や締め方!緩み止めナットの再利用方法も解説
ナイロンナットは、通常のナットにリング状のナイロンを組み込み、ゆるみ止め効果を持たせたものです。現在では自動車や航空機、建築関連などの様々な分野で採用されています。ここでは、ナイロンナットの特徴や使用法などを解説します。
ナイロンナットとは?
ナイロンナットとは、ゆるみ止め機能を持つナットで、ナイロンインサートロックナットとも呼ばれています。1940年頃にアメリカで開発され、軍用機などに多く採用されました。日本でも戦後の自動車産業の発展とともに普及し、幅広い分野で使用されています。
ナイロンナットの特徴
ナイロンナットには通常のナットとは違う点が2つあります。1つ目は形状の違いで、通常のナット本体の上に、本体よりも口径の小さい筒状の突起物がついています。2つ目は、突起物の内側に緩み止めの源となるナイロンリングが組み込まれていることです。
通常のナットはボルトなどのオネジとの隙間を無くすことはできません。この隙間に衝撃や振動などが加わることで軸力の低下が起こり、ゆるみの原因となります。
しかしナイロンリングの内径は使用するボルトなどの呼び径よりも小さいため、ボルトなどが締結される際にナイロンリングにメネジを切りながらねじ込まれますので、隙間を無くすことができます。
これにより強い摩擦力が生じ、振動や衝撃、変動荷重により発生しやすい回転緩みを抑制します。また通常のナットと違い、メネジとなる部分がナイロン製のためにボルトを傷つけることもありません。
加えて緩み止めとしてダブルナットを採用したり、特殊なワッシャーを使う必要がないため、施工工数と部品点数を減らし、コストの削減につながります。
ナイロンナットの用途
ナイロンナットの用途は幅広く、振動や衝撃、変動荷重などに強いため、当初は自動車に多く使用され、自動車産業の発展に大きく貢献してきました。現在では、航空機の座席やタイヤ部分などの揺れを受けやすい箇所にも多く採用され、より安全性を高める役割をしています。
他にも鉄道車両や建築関連部品、高速道路の遮音壁の締結部分など、省力化とゆるみ止め効果で様々な業種で採用されています。
ナイロンナットの規格
ナイロンナットの規格や種類は、寸法によりJISやDIN(ドイツ)の規格と、1種、2種、3種があります。ナイロンナットの規格は、以下の通りになります。(数値は、メーカーや材質によって異なる場合があります)
【1種高形】通常品
ネジの呼び径(d) | ピッチ(p) | 平径(s) | 高さ(m) |
M1 | 0.24 | 2.25 | 1.5 |
M2 | 0.4 | 4.0 | 2.4 |
M3 | 0.5 | 5.5 | 4.0 |
M4 | 0.7 | 7.0 | 5.0 |
M5 | 0.8 | 8.0 | 6.5 |
M6 | 1.0 | 10.0 | 8.0 |
M8 | 1.25 | 13.0 | 9.8 |
M10 | 1.5 | 17.0 | 12.0 |
M12 | 1.75 | 19.0 | 14.4 |
M14 | 2.0 | 22.0 | 16.0 |
M16 | 2.0 | 24.0 | 18.0 |
M18 | 2.5 | 27.0 | 20.0 |
M20 | 2.5 | 30.0 | 22.0 |
M22 | 3.0 | 32.0 | 23.4 |
M24 | 3.0 | 36.0 | 24.0 |
M27 | 3.5 | 41.0 | 27.0 |
M30 | 4.0 | 46.0 | 30.0 |
M33 | 3.5 | 50.0 | 33.0 |
M36 | 4.0 | 55.0 | 36.0 |
【2種低形】1種よりも高さが低い
ネジの呼び径(d) | ピッチ(p) | 平径(s) | 高さ(m) |
M5 | 0.8 | 8.0 | 5.0 |
M6 | 1.0 | 10.0 | 6.0 |
M8 | 1.25 | 13.0 | 8.0 |
M10 | 1.5 | 17.0 | 10.0 |
M12 | 1.75 | 19.0 | 12.0 |
M18 | 2.5 | 27.0 | 18.0 |
【3種】2種よりも更に高さが低い
ネジの呼び径(d) | ピッチ(d) | 平径(s) | 高さ(m) |
M6 | 1.0 | 10.0 | 5.0 |
【小型】2面幅が一般のナットに比べて狭い
ネジの呼び径(d) | ピッチ(p) | 平径(s) | 高さ(m) |
M10 | 1.25 | 14.0 | 12.0 |
M12 | 1.25 | 17.0 | 14.4 |
M14 | 1.5 | 19.0 | 16.0 |
【細目】ねじピッチが細かい
ネジの呼び径(d) | ピッチ(p) | 平径(s) | 高さ(m) |
M8 | 1.0 | 13.0 | 8.0 |
M10 | 1.75 | 17.0 | 12.0 |
M12 | 1.25 | 19.0 | 14.0 |
M14 | 1.5 | 22.0 | 16.0 |
M16 | 1.5 | 24.0 | 18.0 |
M18 | 1.5 | 27.0 | 20.0 |
M20 | 1.5 | 30.0 | 20.0 |
M24 | 2.0 | 36.0 | 24.0 |
DIN規格(ドイツ)2種 低型
ネジの呼び径(d) | ピッチ(p) | 平径(s) | 高さ(m) |
M5 | 0.8 | 8.0 | 5.0 |
M6 | 1.0 | 10.0 | 6.0 |
M8 | 1.25 | 13.0 | 8.0 |
M10 | 1.5 | 17.0 | 10.0 |
M12 | 1.75 | 19.0 | 12.0 |
ナイロンナットの材質
ナイロンナットのナット部の材質は、主に鉄製やステンレス製ですが、黄銅やチタン製、特殊な使用環境や耐久性が必要な場合は表面加工を施す場合もあります。
材質別の主な用途
鉄製ナイロンナットは、精密機器や製造業など多くの分野で使用されています。ステンレス製ナイロンナットは耐熱性や耐食性に優れており、航空機や高速道路遮音壁、鉄道車両などに使用されています。
また、チタン製ナイロンナットは、生体親和性や耐食性に優れているために医療機器や、質量がステンレスの約60%にも関わらず、高い強度を有していますので、航空機などにも多く採用されています。
フランジナイロンナット
ナイロンナットとフランジナットを組み合わせたナットです。
フランジナットとは、ナットの下にフランジと呼ばれる座金が一体化しており、座金のゆるみ止め効果も合わせ持つナットです。フランジナイロンナットは、フランジナットとナイロンリングの組み合わせにより、さらに強力なゆるみ止め効果が得られます。
また、座金不要の一体型であるため座金などが不要となり、作業効率やトータルコスト削減にもつながります。
ナイロンナットの原理、使い方
ナイロンナットは、主に衝撃や振動、変動荷重などによるゆるみを防止します。ここではナイロンナットの原理や使用方法を説明します。
ナイロンナットのゆるみ止め原理
ボルトのゆるみの原因は、大きく回転ゆるみと非回転ゆるみに大別されます。回転ゆるみは振動や衝撃、荷重の変動などが原因で、ボルトやナットなどが徐々に回転してゆるむ現象です。
非回転ゆるみは、ボルトを締結した際に生じた隙間や温度変化、ボルト類の弾性などが原因で、回転を伴わず軸力が低下する現象です。
ナイロンナットは、主に回転ゆるみに対して大きな効果を発揮します。前述のようにボルトなどが締結される際にナイロンリングにメネジを切りながらねじ込まれますので、ねじ山の隙間を無くすことができます。これにより大きな摩擦トルクが発生し、ゆるみ止め効果が発揮されます。
ナイロンナットの使い方
使用方法は通常のナットと同様に一般の工具で取り付けられますが、取り付け方向の確認が必要です。ナイロンナットのナット部を母材側へ向けて取り付けます。
ナイロンナットの外し方
通常は一般のナットと同様ですが、気温が低いとナイロンリングの効果が強く出るために、外れにくくなる場合があります。その場合はドライヤーなどで暖めてナイロンリングを柔らかくすると、外れやすくなります。
ナイロンナットのメリット、デメリット
ナイロンナットは、ゆるみ止めナットとして広く活用されていますが、メリット、デメリットがあります。
ナイロンナットのメリット
ナイロンナットのメリットは、4つあります。
- 特別な工具を使わない簡単施行でゆるみ止め効果を得られ、サイズが豊富にある。
- 他のゆるみ止め部品より、比較的安価でコストが軽減できる。
- ナットとゆるみ止めとの組み合わせにより、他のゆるみ止め材やワッシャーを使用する必要がなく、作業工程の省力化になる。
- ナイロン製なのでボルトなどのオネジを傷つけない。
ナイロンナットのデメリット
- 100℃以上の高温になるような環境下では、ナイロンリングの反発力が弱くなるために、ゆるみ止め性能が発揮できない場合がある。
- 経年劣化や繰り返し使用による、ナイロンリングの反発力減衰や摩耗がゆるみの原因となる。
ナイロンナットの再利用
ナイロンナットは、再利用が可能ですが、初回時に比べるとナイロンリングの磨耗や反発力の低下などによりゆるみ止め効果は減少していきます。ナイロンナットの再利用や注意点について説明します。
ナイロンナットの再利用について
JIS規格B1056に繰り返し利用についての規定トルク値が定められています。再利用は最大5回までとし、各回についてクリアーしなければならない値が規定されています。反復利用も考慮して採用を検討する場合は、この規定をクリアーしたJIS規格品の採用をおすすめします。
また当然ながらナイロンナットの構造上、初回が最もゆるみ止め効果が高く、再利用を重ねる度にその効果は低下します。従って、再利用するナイロンナットの管理やゆるみ止め効果を考慮し、メンテナンスなどで1度外した場合は、コスト的なことも含めて新品への交換も視野に入れることをおすすめします。
ナイロンナット使用上の注意点
まずはボルト長の選定に注意が必要です。ボルトなどが短い場合など、ナイロンリングと十分にかみ合っていない場合は、ゆるみ止めとしての効果を発揮しません。
また、メンテナンスなどで何度か取り付け、取り外しを行ったナイロンナットは、再利用回数の管理が難しくなります。記録しながらのメンテナンス作業は時間を要しますし、確実な記録とその共有、継続は容易ではありませんので、再利用には注意が必要です。
まとめ
ナイロンナットは、金属のナットとナイロンリングの組合せで構成されており、ボルトなどがナイロンリングにメネジを切ることでねじ山の隙間をなくし、主に回転緩みに対して優れたゆるみ止め効果を発揮します。
また、容易な作業性による工程の省力化と、再利用可能と価格面でトータルコストの削減が期待できます。
現在も様々な分野でゆるみ止めナットとして活用されていますが、製品のバリエーションも増え、極小サイズや用途別の加工が施されたナイロンナットなども開発され、さらに用途が広がっています。